功利主義について
功利主義は、ジェレミー・ベンサムが一八世紀に提唱してから、二一世紀の現在にいたるまで強力な倫理思想のひとつである。私も日常的態度としてこの思想を採っている。
これは、善とは快が苦を上回る状態であるとする。この「快」とは、感覚的快楽全般として定義される。そして、正義とは、「最大多数の最大幸福」であり、社会が目指す状態はここにあると主張するものである。
ちまたに受けいられている人権思想ではなく、この思想を採用するのは、快が原初的かつ普遍的欲求であるのに対し、「人権」はそうでないからである。あらゆる正義論の諸前提のなかで、快だけが明晰判明な仕方で処理することができ、また最終的な決断を下すことができる。倫理思想は、正確に決断を下せるものでなければならない。
また、私の支持する功利主義は、ミルのような質的功利主義ではなく、量的功利主義である。人間は"高尚さ"や"気品"といった曖昧な概念を正義に採用すべきではない。これはよく犯される過ちであるが、正義と美学を混在させてはならない。"不満足なソクラテスより、満足な豚であるほうがよい"のだ。
功利主義の困難として、功利計算の難しさが挙げられる。しかし、この思想の強みとして、弱点が"難しさ"のみに帰着するという点が挙げられる。それは定義や理解の難しさではなく、実践における難しさであり、ここにおいて功利主義はほかの思想にくらべて前進可能性をもっているのだ。